まず,開放型環境の大きな特徴の一つとして,それぞれが独自の目的を持った 多種多様なシステム構成要素(エージェント)が複数存在するという点が挙げら れます. ここでは,各エージェントの行動は比較的単純な規則に支配されているとして も,多様な相互作用により系全体としては予測不能で極めて複雑な挙動を示す ことになります. しかし,こうした挙動を何らかの形で解析して,その特徴の本質を捉えようと 試みることは重要です. このときにカオス理論などの複雑力学系などの視点が役立つでしょう. そして,こうした考察をした上で,各エージェントが相互の情報交換などを通じ て,分業をしたり動的に組織を編成したりして,協調を図りながら全体として うまく処理を進めていく仕組みを考えることも重要です. 例えば,蟻などの昆虫社会や人間が行う経済活動あるいは無数のニューロン の活動から生ずる高度な脳機能のメカニズムなどが大きなヒントを与えてくれ ます.
また,開放型環境は予測不能で複雑な挙動を示すという特徴がありますので, エージェントが直面し得る状況をその設計時に全て洗い出すことはできません. したがって,従来からのように,その挙動をあらかじめ規定するという固定的 な設計法だけでは不十分です.そこでは,環境とのインタラクションに基づく 学習や進化といった生物あるいは自然界の持つ様々なメカニズムなどからヒン トを探ることができるでしょう.
自然界の生物はもちろん経済システムの中の人間の活動も,いわゆる従来から の人工物とは全く異なる設計・動作原理の上に成立していながらも,実世界と いう動的でかつ予測不能な複雑な挙動を示す開放の強い環境に対して極めて柔 軟に適応しています.したがって,これらに内在するメカニズムの中から今後 の開放型環境を見据えた柔軟な情報処理機構を考えるにあたって学ぶべきこと は多いのです.
一方,これまで述べてきたような基礎理論的な事柄も十分に考慮した上で, 現在の計算機環境で適用可能な即戦的かつ現実的な技術を見つけ,それを実現 するための言語系やシステムの枠組を考案していくことも重要です.近年,オ ブジェクト指向技術の延長として「エージェント指向」という言葉も用いられ るようになってきましたが,その中身は決して充実しているとは言い難い状況 にあります.エージェント指向の技術として何が本質的であるのかを十分に検 討し,見極めなくては,中身の無い単なる標語で終わってしまう可能性があり ます.
我々のグループは,生物学,進化論,認知科学,経済学,複雑系など多角的な
視点から,マルチエージェントシステムに関する様々な問題を探究しています.
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